背中合わせで座るのが好きだった
終始無言で各々好きなことをして、顔も合わせず数時間。
それがただ僕らには合っているというだけで、深い意味は特にない。
合わせた背中の温度は心地いい。眠くなるような安心感。今日もまどろむ目をこすりながら、背中に息づく小さな毛玉に思いを馳せる。温もりと鼓動が生き物であることをただ平然と誇示していた。それ以上の主張も感情も特にはない。
「バンジョー」
「なに」
「お腹がすいたわ」
「そうだね」
「ピザでも食べたいわ」
「いいね」
「あとマクジギーのバーガーも」
「デリバリーとろうか」
「ピクルス抜きよ」
「わかってるよ」
「特急でもってこなきゃ爆弾くらわせてやるって言っといて」
「おだやかじゃないなあ」
「当然よ。ヒーローの注文なんだから」
「はは…じゃあ、ちょっと待ってて」
「…あ、」
「ちょっと待ってよ」
浮かせた腰を掴まれて、ほんの数時間ぶりに振り返る
予想より小さくふわふわとした赤色に焼かれそうになりながら緑の瞳とぶつかる青。
特に何もない。高鳴る鼓動もなければ泳ぐ視線もない。瞳に映る強い意思もない。戸惑いも照れも焦りもない。長い付き合いが作り上げる安定感
気だるさだけを体現しながらやがてめんどくさげに手すら離して今までどおり向こうを向いた。何も言わない。特に意味もない。また手元にある本を読みながら欠伸をした
真意のほどはわからないし、真意なんてものはそもそもないのだろうから僕も特に何も考えずにまた同じように座り直して背中をあわせる。羽毛のくすぐったさと暖かさ
「もうちょっとこうしてようか」
「そうね」
ぼんやりと窓を眺めてさしこむ陽の暖かさに眠気が襲う。
おおきな欠伸をしたら後ろでつられる声がした
***
なんてことはないただの日常
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