昔書いた小話発掘したのでなんとなく載せてみるー
「じゃあ、そろそろ行くわ」
机に手をついて、椅子から立ちあがり、長い髪をかき上げる。
その見慣れた美しい所作を茫然と眺めながら、それでも、心はどこかでそれを否定していた
あれは失われていくが故の美しさであると
誰かがそうつぶやいた。
「ああ。」
どこか上の空で一言だけぽつりと漏れた。
椅子に座ったままのおれは彼女を自然と見上げる格好となった
それなのに、背の高い彼女はなぜかいつもより小さく見えて、いつもより遠くに感じる
ひと時、目が合った時のさびしそうな顔が、瞼に焼き付いて離れようとしない
「…愛してるよ」
意味を持たない言葉の羅列が心を乗せず口を滑り出る
「ええ、私も」
そう言った彼女は、もうおれのほうを見ていなかった
やがてドアを開けて出て行く彼女を、朝焼けの光が掻き消すように包み込む
淡い光に包まれて、黒い影だけになって、遠ざかるその後ろ姿を茫然と眺めながら
ただ美しいと、
おれは思った。
(それは明くる日の夢)
***
コンカー×ベリー
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